海上コンテナ輸送の起源を紹介
コンテナが輸送に使われるようになってから約 1 世紀が経ちました。1920 年代のアメリカやヨーロッパ各国、1930 年代の日本では既に国内の鉄道輸送においてコンテナが使われていました。一方、国境をまたいだ国際輸送において初めてコンテナが使われた舞台は海上であることが知られています。
貨物輸送では発地から着地に至るまで様々な輸送機関を利用します。輸送網の両端ではトラックを使い、中間では鉄道や船舶、飛行機などを利用するという具合にです。1 つの貨物輸送において複数の輸送機関を組み合わせて利用する形態を複合一貫輸送(intermodal transport)と呼びます。製品の生産に必要な原材料や部品、さらには中間製品を輸入する場合、さらに完成した製品を輸出する場合、多くは船で運ばれており、現代の複合一貫輸送は海上コンテナ輸送を中心に構成されています。そこで今回は海上コンテナ輸送の起源を紹介します。
「海上輸送コンテナの父」マルコム・マックリーン
海上コンテナ輸送の起源は 1956 年 4 月に製造されたコンテナ船 『Ideal X』 まで遡ります。このとき Ideal X はアメリカのニュージャージー州からテキサス州まで 58 個のコンテナを輸送しました。Ideal X の生みの親であるマルコム・マックリーン(Malcom McLean)はもともとトラック会社を経営していたアメリカ人の実業家です。彼の会社はトレーラートラックによる運送サービスを提供していました。
この「トレーラートラック」については少し解説が必要です。トレーラートラックとは 1 台の牽引車(セミトラクタと呼ぶ)と 1 台の被牽引車(セミトレーラやシャーシトレーラと呼ぶ)を連結した状態のトラックのことです。着脱可能なコンテナをセミトレーラーの上に乗せ、それを前方からセミトラクタで牽引して移動します。
ちなみに、このトレーラートラックの起源もアメリカです。1914 年、デトロイトの鍛冶職人たちが、「自分のボートを車で運ぶための台車が欲しい」という顧客の要望に応え、T型フォードを改造して完成させた乗り物がトレーラーの起源です。この職人たちが設立した会社は後に世界最大のトレーラートラック製造会社(フルハーフ社)へと発展します。
トレーラートラックから着想を得て誕生した海上コンテナ輸送
マックリーンに話を戻しましょう。彼の会社はトレーラートラックによる運送サービスを提供していたのですが、やがて海上輸送に興味を持ち始め、船とトレーラートラックを重ねて考えるようになります。トレーラートラックでは、コンテナを乗せたセミトレーラーをセミトラクタが牽引します。そこで、船を牽引車であるセミトラクタとみなすのであれば、船に乗せる貨物はセミトレーラーに相当し、そこにコンテナを使うという発想が生まれます。こうしてマックリーンは、貨物を乗せたコンテナを船の甲板上に積載するというアイデアへ到達します。そこから誕生したのがコンテナ船第 1 号 Ideal X です。
マックリーンはさらに荷役技術の進歩に注力し、船に搭載したクレーンを使ってコンテナの積み下ろし行うというアイデアに至ります。具体的には、コンテナの上面四隅に金具を設置し、クレーンに取り付けた吊上げ装置をその金具にロックすることで、クレーンでコンテナを吊り上げられるようにしました。さらに、コンテナを保管する船倉内にレールを設け、そのレールに沿ってコンテナを格納できるようにします。これは LOLO方式(Lift-On-Lift-Off)と呼ばれ、後にコンテナ輸送が大発展する上での原動力になります。
マックリーンの海上コンテナ輸送サービスは道路や鉄道輸送に比べて規模の経済性を発揮し、ビジネスとして成功します。当初は国内航路だけを対象とするサービスでしたが、1966 年からは国際コンテナ輸送サービス(太平洋航路)を開始します。これが国際的な海上コンテナ輸送の起源であるとともに、国際輸送においてコンテナが使われた起源でもあります。
政府の規制をアイデアで乗り越える
マックリーンは当初、コンテナの陸上輸送をすべて自社で行う予定でした。しかし、政府の規制により、自社で行うことができる陸上輸送の範囲は自社航路に付属するごく一部に限定されてしまいます。そのため、コンテナの陸上輸送部分に関しては、外部のトラック業者と契約する必要性が発生しました。
そこでマックリーンが考案したのが「トレーラー交換契約」です。まず彼は、陸上ターミナルでコンテナを保管する際には、コンテナをセミトレーラーに乗せた状態のままにしました。その上で、ターミナルにおいてトラック業者にコンテナをセミトレーラーごと貸し出します。トラック業者はコンテナを荷主に届けることで運賃を稼ぐことができますが、その一方で、マックリーンの会社にコンテナの賃貸料を支払う必要があるということです。この賃貸料は賃貸期間が延びるにしたがい急激に増加する料金体系になっていたため、トラック業者の間にはコンテナを素早く届けるインセンティブが発生します。その結果、コンテナの利用率が向上しました。トラック業者にとっては、適切なコンテナ賃貸料のもとで陸上運賃を稼げることは魅力でした。加えて、コンテナはセミトレーラーに乗せられた状態で管理されているため、業者は速やかにコンテナの配送に向かうことができる点も大きなメリットでした。
参考資料
『Malcom McLean』Wikipedia
『Lift-on/lift-off』Wikipedia
『コンテナ物語-世界を変えたのは「箱」の発明だった-』マルク・レビンソン著 村井章子訳
『国際海上コンテナ輸送概論』今井昭夫
『海上コンテナ物流論』山岸寛